私のAusbildung
石田 裕子
日本で製菓学校に通っていた時、学校主催の「ドイツ・ウィーン・パリでお菓子を食べる」という旅行がありました。その時に初めてドイツを訪れて以来、私はすっかりドイツのとりこになり、その後も1人で何度かドイツ旅行をする程になってしまいました。 そんな理由から私はずっとドイツに憧れを持ち続けており、「いつかドイツで生活したい!」と心の中で常に思っていました。そしてある時、インターネットでこのプログラムの2004年度製菓の追加募集を偶然に発見したのです。精神的に気落ちしていた時期でしたが、このプログラムに参加したいと強く思い、家族を説得するうちに元気を取り戻す事ができました。
その後、慌しく準備を進め、2004年2月よりケルンのCDC語学学校にて語学研修が始まりました。日本で少しだけドイツ語を習っていたこともあったのでドイツ語の基礎知識的なものはあったのですが、日本で日本人だけが通う語学学校との大きな違いに戸惑う毎日でした。しかし、今まで聞いた事もなかった国の人たちやその他世界各国の人たちとの出会いがあり、とても刺激的で楽しい日々も過ごす事が出来ました。英語すらできない私は、他国の人とコミュニケーションをとるにはドイツ語を話すしか手はなく、語学習得をするには良い時間でした。
半年間の語学研修期間を終えウルムに引越し、とうとう9月から私のKonditorin(製菓職人)としてのAusbildung(職業訓練)が始まりました。
日本で約1年半働いていた都内の有名ケーキ店では、ちょうど私が勤め始めた頃にテレビに取り上げられ毎日の様に長蛇の列ができるほどで、朝暗いうちから夜遅くまで働いて文字通り日の目を見ない日々を送っていました。ケーキを作る事が大好きでしているこの仕事なのに、自分の生活や身体を犠牲にしてクタクタになっていて、仕事以外にしたいこともできずに毎日が過ぎていき、何の為に仕事をしているんだろう?どうして私はこんなになってまでここで仕事をしているんだろう?そんな疑問を毎日持ち続けながら仕事をするのは本当に苦しい事でした。これではケーキを見ることすら嫌いになってしまう!このままでは駄目だ!そう思い立ち、手足も痛めていた事もあって、この店を辞めました。
店を辞めてから、心身をしばらくのんびりさせたい!と、予てから憧れ続けていたドイツに、姉の友人を頼って3ヶ月間ボンに滞在しました。ちょうど初夏から夏の終わりまでの明るくて日の長い、ドイツ人の大好きな季節に滞在することができました。それまでの過酷な(日の目を見ない!)日々に対して、なんて素敵で穏やかな日々!!そして旅行という短い滞在とは違う、ドイツ人と共に「生活」しているという感覚。物や人が溢れた日本と比べ、ドイツはなんてのんびり暮らせるのでしょう。私はますますドイツが好きになりました。帰国の時も、絶対にまたドイツに来る!と心に誓ったものでした。
帰国後はケーキの販売員をしていたのですが、やはりケーキを売るより作りたい!そう思っていた時にこのプログラムに参加できることになりました。
ドイツ人の仕事に対する姿勢や考え方、仕事の進め方から掃除の仕方まで、あらゆる面で日本の「仕事」とは違うドイツの「Ausbildung」。私のAusbildungが始まってから早いものであと数ヶ月で1年が経とうとしていますが、今でも毎日のように驚きと発見があります。日本では当たり前にしていた事をドイツではしない、反対に日本では絶対しない事をドイツではしたりと、初めは何にでも驚いていましたが、最近ではすっかり肝が据わってきたのか、驚きつつも「あっそう。(注:日本語)ドイツではこうなのね!」位にしか思わなくなってきました。
そして1日8時間という決められた労働時間できっちりと終わり(たまには残業もありますが)、その他の自分の時間にはゆとりが持てているという点を、以前の日本での生活と比べ、これが「生活する」ということなのではないかと感じています。
とはいえ、まだまだドイツ語にも苦労しており、職場でも学校でも多々困難にぶち当たる事もあります。幸い、職場ではシェフをはじめ皆親切で、私のドイツ語が少しおかしかったりしても
理解してくれたり訂正してくれたり、時にはクイズ形式で単語当てなどしてくれたりと、楽しみながらドイツ語を学べています。学校ではドイツ人の同級生と机を並べて勉強したりテストを受けたり、かなりドイツ語でハンデがありますが、授業では先生も私達が理解できるまで教えてくれたりと、様々な方から温かい援助をいただいています。また、同じプログラム参加者の皆とも日頃から協力し励まし合い、皆でゲゼレに向かって頑張っています。
3月にやっと中間試験が終ったばかりですが、今年の冬にはもうゲゼレ試験が控えています。このプログラムでお世話になっているInWEnt並びにHWKの方々、ChefやChefinをはじめとした事業所の方々、日本の家族や友人など、私の周りの方々の協力や援助に応える為にも是非ゲゼレにはならなければ、と思っています。そのためには、日頃から更に勉強や練習などに励む事が必要だと痛感しています。しかし、せっかくドイツで生活しているのだから、ドイツの生活を楽しみつつマイペースにやっていこうと思います。
このプログラム終了後のことはまだまだ決定できずにいます。マイスターシューレに行くのも一つの道ではありますが、マイスターにならずともドイツで学んだ事は日本でも活かせることが出来るとも考えています。最終的には日本で自分のお店を持ちたいと思っているので、それに向けて活かせる事、学ぶべき事をしっかりと吸収し